無双~MU-SO~其の壱:緒形健一インタビュー
――『S-cup』優勝から4カ月弱、いよいよ2007年の初戦を迎えることになりました。現在の調子はいかがですか?
「いい練習ができてますね。練習内容を大きく変えたというわけではないんですが、重心の取り方や足の指の使い方、力の抜き方なんかを工夫して。かなり手応えがありますよ」
――まだまだ強くなっているという。
「そういう感覚はありますね。もっといい自分が出せるんじゃないかっていう」
――『S-cup』で最高の結果を出して、それでも自分に成長を課しているというのは緒形さんらしいですね。
「『S-cup』はまあ、たまたまですから(笑)」
――終わってみれば「たまたま」ですか(笑)。
「現役である以上、次を目指さなきゃ意味ないですからね。それにチャンピオンとしての責任もありますから。見る人は前以上に期待するでしょうからね。前より重い立場になっているのは間違いないです」
――大変ですよね。前は日本のエースとして緒形さんがいて宍戸選手がいて、もう一方に『S-cup』覇者のサワー選手がいるという構図。でも今は、その全ての立場を緒形さんが背負うわけですから。
「ただ僕自身としては、『S-cup』で結果を出したからどうだってことはないんですよ。もちろん自信やプライドにはなりますけど、立場があるからって守りに入ってもしょうがない。それよりも、自分らしいやるかやられるかの試合をしていきたいですね。やっぱりプロですから。お客さんが望むような試合をしないと。その軸は何があっても変わらないですよ。しょせん、勝負は勝つか負けるかですからね。ゴングが鳴ったら立場なんて考えてられない。殺すか、殺されるかの場面で“チャンピオンなんだからこういう殺し方しないと”なんて思いませんよね(笑)。とにかく殺さなきゃ自分が殺されるのに」
――あくまでスタンスは変わらないと。
「僕が格闘技を始めたきっかけっていうのは、強くなりたかったからなんですよ。それと“倒し合いって凄いな”という気持ち。その初心は貫こうとそれができなくなったら、自分は終わりだと思ってます。いろんなタイプのチャンピオンがいていいと思うんですけどね。僕はチャンピオンになっても倒し合いがしたい。そういうダメなタイプ(笑)」
――ダメではないでしょうけど(笑)。調子自体もよさそうですね。
「ケガがあったり、29歳くらいで体力的な限界を感じたことがあったんですけど、いま思えばあれは間違いでしたね。肉体的にも精神的にも、今が一番いいんですよ」
――精神的なことは分かりますけど、体力的にも今がピークなんですか!?
「“気”がそうさせるんですよ。“病は気から”じゃないですけど、病気をしようがケガをしようが、“気”によってだいぶ違うんですよね。“気”が出てれば、何にも怖くないんですよ。極論でいえば、ケガをしてようが関係ないんですよ。練習も試合も死ぬ気でやればいいんです。死ぬこと考えたら、ケガなんてどうでもいいですよね。どうせ負けたら死ぬんですから。それくらいの覚悟ができてれば、怖いものはないです」
――今回の相手は現役ムエタイ王者のビッグベン。いきなり厳しい相手ですね。
「とにかく強い相手とやらせてほしいって、自分から言ったんですよ。消化試合はしたくないって。結局、やることは一緒ですからね。弱い相手だったら中途半端な練習して、適当な気持ちでリングに上がるのかっていったら、そうじゃないわけですから」
――誰が相手でもとことんまで追い込んだ練習をするし、やるかやられるかの試合をするのは一緒なんだから、相手は強いほうがいいと。
「誰が相手でも、一回の試合で一回、命をかけるんですよ。それは一緒なんだから、強い相手とやりたいんですよね」
――タイ人との試合って、久しぶりですよね。
「シティサック戦以来ですね」
――あの試合は97年ですから……10年ぶりですか!
「あの試合では眼か底骨折してますからね。相手は違うけど、ムエタイ相手に借りを返そうかなと。同じサウスポーですしね」
――ビッグベン選手の印象は、どんな感じですか?
「ムエタイなんですけど、パンチとローでくる選手ですね。ヨーロッパでも試合してるし、いわゆるムエタイっぽい選手じゃない」
――そうなると、緒形さんとも手が合いそうですね。
「打ち合いたいですね、やっぱり」
――やっぱりそうですか(笑)。
「そのほうがやりがいもあるし、お客さんも喜ぶと思うんですよ。選手としてはムエタイの技術にも興味はあるし、細かいかけひきの勝負をしたいっていう気持ちもあるんですけど。そういう試合をするんだったら、僕はタイで試合します」
――プロはお客さんを沸かせるのが仕事だと。
「ここは日本で、お客さんがあっての興行ですからね。細かくポイントの奪い合いをして勝っても、お客さんは喜ばないでしょう」
――ムエタイ王者が相手だったら、本当は勝つだけでも大変なんですけどね。それに加えて倒す試合をすると。
「プロですからね。僕がどうして生活していけるかっていったら、お客さんがチケットを買ってくれるからですよ。そのお客さんを喜ばせなかったら意味がないですからね。どれだけ凄い結果を残しても、お客さんに伝わらなければ自己満足じゃないですか。僕らアマチュアじゃないですからね」
――ただ、かけひきに長けているのもムエタイの特徴ですよね。いったん守りに入ったら、それを崩すのは容易なことではない。
「そこは難しいところなんですけどね。でも、守りに入った相手を倒すのも、決して不可能じゃないと思うんですよ。何かしらやり方はあると思うんで、僕はそこを追及していきたいです」
――今回はムエタイとの4VS4対抗戦にもなりますね。
「戦(いくさ)ですよね。僕だけじゃなく、シュートボクシングのチームとして負けられないって気持ちになりますし、なにより燃えますよね、団体戦だと。みんなでやるぞっていう。ただ、熱くなりすぎても僕の場合はダメなんですけど(笑)」
――やっぱり蹴りが出て、ジャブを冷静に出してっていうところからKOも生まれるっていう。
「そこがバロメーターでしょうね。まあ、今年は大丈夫だと思うんですけど。僕もいい加減、大人ですから(笑)。守りには入らないけど、大人の闘い方で倒しにいきますよ。ちょい悪オヤジくらいの感じで(笑)」
――緒形さんにとって、今年のシュートボクシングのテーマは何になると思いますか?
「まずは今まで同様に、本当に強いヤツと闘って勝つことですね。それと次の世代を育てること。自分の体が動くうちに、伝えられるものを伝えていきたい。今、世の中がちょっとおかしなことになってるじゃないですか。セミナーで学校に行くことがあるんですけど、今の学校って本当に荒んでるんですよ。だから今の子供たちに、僕が格闘技から教わったものを伝えていきたいんですよね。それが、シーザー会長が目指すシュートボクシングの姿でもあると思いますね」


